佐鳴湖畔からのスカイライン
入野の臨江寺さんの丘の上にクレーンが立った。
A工務店が施工している10階建てのマンションの建設工事が始まったのだ。
佐鳴湖北岸に住み、毎朝のように佐鳴湖畔をジョギングしている私には、スカイラインが壊されるという点が最も残念に思う。これは佐鳴湖をお気に入りにしている多くの市民にとって、共通する思いであろう。スカイラインの破壊は結果として気付くということが多いから、未だそれほど多くの市民の風景を傷つけている訳ではないのだろう。
佐鳴湖畔の斜面の森は四季折々の色を成している。そしてその上の広い空は日々の天気を反映してまた色を変える。この両者の境界は天と地との境として永く変わらずに維持されてきた。何世代にもわたって同じ風景を見てきた訳だ。佐鳴湖畔から見たスカイラインは市民共通の財産だと言ってよい。
これがここで急に変わる。一事業者の開発行為によって風景が変わってしまうのだ。
反対運動が起きるのも理解できる。多くののぼり旗には「絶対反対」の文字が踊っていた。
建設が始まってからこれに加えて「購入者にもつぐなってもらいます」と書かれた新たな旗が加わった。
これには違和感がある。
購入者に「風景破壊の責任がある」とは思えない。敵にまわすべき者ではない者を敵にしている。
マンション建設に反対してきた住民の中にも、購入者を敵にまわすような考え方に疑問を持つ人は居るだろう。本当の風景破壊の責任者は誰なのだ。
ディベロッパーが風景破壊者として責任を負うべきか。
ディベロッパーは、このマンションが風景を破壊することは予見できた、この風景が市民共通の財産だという認識も持てた筈ではある。地元のディベロッパーや社会的責任のあるゼネコンだったらその社会的信用と引き換えにしてまでたとえ合法的な開発ではあっても手は出さなかったであろう。でも本社が地元にないディベロッパーなら、売って利益を持ち帰ればその後の意見を気にする必要はない。狙われるべくして狙われた。安くはない筈の土地の購入費用と建設費用を負担して、合法的な建築物を建て、売却して利益を得ることは責められることではない。
根本的には、このような開発を合法とする都市計画の指定であった、それは意図された行為だった。
都市計画の案を作ったのは浜松市役所の都市計画課なのだろう。行政法的にはしかるべく手続きを踏んで都市計画案が定められたに違いない。
都市計画課は、佐鳴湖のスカイラインを壊し、風景を変える都市計画になることを当然のこととして知っていた。(低層住宅街よりも中高層の住宅街にした方が区画整理で投入した公費を早く確実に回収できると考えただろう。)この都市計画決定には都市計画審議会や市議会も関与した筈だし、彼らもこの佐鳴湖からの風景が変わることを知り得る立場にあった。あって、その上で同意したとみるしかない。
直接関与はしていないけれど、地域の景観の価値に関心を持たねばならないプロフェッショナルは居た。静大工学部建築学科や浜松市建築士協会はこの都市計画を座視したのだろうか。
建築士にとってはビジネスチャンスが増えることになるかも知れないが、市民の共有財産である景観を犠牲にして自らの職域の利益を図ったのならば、その職業倫理が問われる。
学としての大学は何をし、何をしなかったのだろう。とここまで書いて、浜松市内に大学は複数あるが建築学科のある大学がないことを知った。市民生活に最も近い学の一つである建築学科がないことは驚きである。建築学科がないからと言って静大工学部がこの都市計画に対して免責される訳ではない。
ということで、この景観破壊に最も責任あるのは市役所の都市計画課。
市の行政が、佐鳴湖の風景をディベロッパーに売り渡した。
それをチェックすべき立場にあるにもかかわらず、その責任を果たさなかった者として、都市計画審議会、浜松市議会、静大工学部、建築士協会、そして地域メディアも。
これらに比べれば、経済原則に則って活動したデベロッパーは当然の活動をしたとさえ言える。
ましてや購入者には何の責任もないだろう。
マンション建設に反対する運動は敵を見誤っている。
購入者を脅かす旗を見て、ディベロッパーは胸をなでおろしたに違いない。
都市計画に関与し、あるいは知り得る立場なのに放置した者たちも。
佐鳴湖西岸のスカイライン
臨江寺さんの丘の上




近建築設計室/近藤です。
お久しぶりです。お元気ですか?
まずは自分の認識ですが、大平台辺りにマンションが出来るらしいということは何となく耳に入っていました。
しかし、具体的な場所や規模等は判りませんでした。
否、知ろうともしなかったのが実態です。
正直な所、私自身、スカイラインまで考えておりませんでした。
大野さんがおっしゃる様に確かにマンションが出来れば、否応無くその建物が目に入って来ることでしょう。
それからでは遅いですね…。
現在、建築士会や建築士事務所協会は残念ながら形骸化していると感じています。
明確な意図を持っている行政機関やそれに変わる会がないと同じ様なことがなされるとも思っています。
とりとめも無いコメントですみません…。
近日中にそちらに寄らせて頂きます。
ステンドグラスの作家さんは、うちの税理士さんの先生らしいです。
投稿: KON | 2008年11月19日 (水) 11時50分
古山様、コメントありがとうございます。
ウェブを拝見していないまま記事を書いてしまいました。古山様の活動を知り、心強く思います。
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現在の日本で環境問題と呼ばれるものは、殆どが土地利用問題なのではないか、というのが私見です。
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仰るとおりだと思います。土地利用にかかわる紛争が建築確認制度に過剰な負担を課しています。建築基準法で想定されている講学上の「確認」行為に過大な課題が背負わされています。
景観の問題等は法的な規制が馴染むのか十分議論すべきでしょう。
イギリスのナショナルトラストのように、自腹を切ってまで守る意志があるか。
大谷幸夫が注目したような自生的な秩序形成は目指せないのだろうか。
公とか私とかの視点を超えて、共の財産として共のコントロール力が発揮できるとよいと思うのです。
とりとめないコメントになってしまいました。
投稿: マスター | 2008年11月15日 (土) 21時51分
市内に住む建築士で古山と申します。
渡辺昭さんから貴ページをご紹介いただきました。
市民だけでなく、行政職員も行政指導から欧米型の法運用へという流れに慣れないので、ややもすると環境保全が郊外反対のむしろ旗の時代に逆戻りしてしまうのは残念なことです。
昨日の建築審査会の意見陳述をウェブに貼っておきました。ご一覧ください。
http://www.tcp-ip.or.jp/~ask/urbanism/rinko/review/index.html
ただの建築士で環境のシロートですが、各種学校で「建築環境」の講座を持っています。機会があればご指導ください。
現在の日本で環境問題と呼ばれるものは、殆どが土地利用問題なのではないか、というのが私見です。
浜名湖は生まれ育ったところなので、広葉樹の立てる音よりも「松風」の方が親しみが持てます。夏には子供の頃に自転車で走った湖岸を裁縫してみたのですが、最近の浜名湖の様子を見ると、先が思いやられます。
http://dehoudai.exblog.jp/i4/
投稿: 古山恵一郎 | 2008年11月15日 (土) 12時41分